夫婦の共有名義財産の相続手続きについて
1 共有名義財産の相続手続きはやや複雑になります
夫婦が長年の生活の中で築いた財産の中には、どちらか一方の名義ではなく、夫婦の共有名義となっているものもあります。
基本的に、所有権の対象となる物や株式などは、共有財産になり得ます。
特に夫婦共有財産になっていることが多いのは、ご自宅などの不動産です。
夫婦の一方が亡くなった場合、共有名義財産については、単独名義と異なり、共有持分を対象に遺産分割協議や相続登記をする必要があります。
以下、夫婦共有名義財産の相続手続きについて、基本的な流れや注意点を説明します。
2 共有名義財産について
共有名義財産とは、同じ財産に複数の権利者が存在し、それぞれが一定の持分を有している財産のことを指します。
たとえば、夫と妻がそれぞれ2分の1の持分で土地や建物を所有している場合、その不動産は共有財産となります。
登記簿上には、「夫 持分2分の1」「妻 持分2分の1」などの形で記載されているのが一般的です。
共有名義の不動産は、夫婦だけでなく親子や兄弟姉妹によるものもあります。
夫婦の場合は住宅ローンを共同で組んだり、資金を出し合って不動産を取得するケースもあるため、実務上夫婦共有名義の不動産はよく見受けられます。
3 夫婦の一方が亡くなった場合の基本的な考え方
夫婦のうち一方が亡くなった場合、その人の持分(共有持分)が相続の対象となります。
つまり、亡くなった人の持分のみ相続手続きをすることになります。
たとえば、夫婦で2分の1ずつの持分を有している不動産があり、夫が亡くなった場合は、夫の持分2分の1のみが相続の対象となり、妻の持分2分の1は変わりません。
妻が相続人となるほか、子どもがいれば子どもも相続人となり、夫の持分は原則として法定相続分に基づいて分割されます。
4 共有不動産の相続登記手続き
共有名義の不動産に限りませんが、相続をする場合、まずは相続人全員で遺産分割協議を行い、亡くなった方の財産を誰が取得するのかを決めます。
遺言書がある場合は、その内容に従って手続きを進めることになります。
例えば、夫が亡くなった場合、夫の持分2分の1を妻が相続することで、不動産を妻が単独所有できるようになります。
一方で、夫の持分を妻と子が法定相続分どおりに相続した場合、妻と子どもとの共有状態になることになります。
相続登記を行う場合には、一般的に以下の書類、資料が必要です。
①被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③被相続人の住民票除票または戸籍の附票
④不動産の共有持分を取得する相続人の住民票
⑤遺産分割協議書と印鑑証明書
⑥登録免許税
手続きをする際には、相続登記申請書に必要事項を記載して、法務局に提出します。
5 不動産以外の共有財産について
法律上は、不動産以外の財産も夫婦共有になり得ます。
例えば、株式が夫婦の共有財産になっていることもあり得ます(法律上は、準共有状態にあるといいます)。
株式が準共有状態になっていると、議決権の行使に支障をきたす場合がありますので、できるだけ早く相続手続きをすることが望まれます。
上場株式の場合には、遺産分割協議書を作成した後で、証券会社で共有持分の名義変更手続きを行います。
非上場株式の場合には、株式を発行している会社に連絡をし、株主名簿の書き換えを行う必要があります。
6 共有名義のままにするときの注意点
亡くなった方の共有持分を、もうひとりの共有者である配偶者が取得せず、共有状態にすることも可能ではあります。
ただし、いくつかの注意点があります。
まず、共有状態では、財産の処分や利用に制限が生じます。
たとえば、不動産を売却する場合、共有者全員の同意が必要となります。
また、建物のリフォームや土地の担保設定なども、他の共有者との協議が必要になることがあります。
さらに、相続後も共有状態を続けると、将来的に相続人の数が増えて権利関係が複雑になるリスクがあります。
可能であれば、遺産分割協議の段階で単独名義にまとめるなど、共有状態を解消する方法を検討することをおすすめします。
7 相続税申告時における共有名義財産の評価
共有名義の財産がある場合、相続税の計算においては、被相続人が有していた持分部分の価値を評価します。
例えば、夫婦で2分の1ずつの持分を持つ不動産が3000万円の場合で夫が亡くなると、基本的には夫の持分は1500万円と評価され、その金額が相続税の課税対象となります。
ただし、被相続人と同居していた配偶者が不動産を相続する場合には、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、税法上の優遇措置が受けられ、相続税の負担を大きく軽減できる可能性があります。
8 相続が発生したら、まずは専門家に相談してみましょう
夫婦の共有名義財産の相続手続きでは、まず相続の対象となる部分を正確に把握することが重要です。
不動産であれば登記簿を確認する、株式であれば証券会社や株式発行会社に確認するといったことを行います。
亡くなった方の持分のみを対象として遺産分割協議を行い、その後相続登記など経て相続人に名義を変更します。
状況によっては共有状態を維持することも可能ですが、将来的なトラブルを避けるためには、単独名義化などを検討するのが望ましいといえます。
夫婦共有財産の相続は、検討すべき事項が多いため、司法書士や税理士、弁護士などの専門家に相談することも大切です。




























