相続手続きの種類と期限
1 相続手続きには期限があるものとないものがある
被相続人が亡くなった後には、死亡届の提出や住民票の抹消の届出など、行うべき手続きが多く、また、手続きによっては期限が法律で定められているものも多いです。
そのため、被相続人が亡くなった後に行う手続きと期限について整理しておかなければ、あっという間に時間が過ぎてしまい、遺された方が思わぬ不利益を被ることもあります。
また、これらの手続きとは別に、いわゆる相続手続きが必要になる場面も少なくありません。
相続手続きとは、被相続人の遺産を相続するために必要な手続きのことをいいます。
相続手続きには、期限があるものとないものがありますので、期限のあるものについては、その期限をあらかじめ整理しておかれた方がよいでしょう。
以下に、主な相続手続きの種類とその期限の有無、期限がある場合はその期限についてご説明いたします。
2 遺言書の有無の調査
⑴ 遺言書の有無の調査とは
遺言書とは、被相続人が死亡時に自分が所有している財産について、自分の死後、誰に・どのように引き継がせるかを表示した文書のことをいいます。
遺言書が存在し、法律的に有効なものである場合は、この遺言書に表示された被相続人の生前の意思が優先されることになりますので、遺言書があるかないかによって、その後の相続手続きは異なってきます。
法律上有効と認められる遺言書は、自筆証書遺言か公正証書遺言として作成されることが多いです。
自筆証書遺言の場合は、被相続人が貴重品を保管していた場所で個人的に保管していたり、相続人あるいは身近な信頼できる人に保管してもらったりしている可能性があります。
したがって、自筆証書遺言は発見が難しい場合がありますが、遺品整理と並行して遺言書の有無を確認してみることをおすすめします。
公正証書遺言で遺言書が作成された場合は、遺言書は公証役場に保管されます。
平成以降の公正証書遺言であれば、公証役場の遺言検索システムで検索することができるので、お近くの公証役場で検索をしてみることをおすすめします。
⑵ 遺言書の有無の調査の期限について
遺言書の有無の調査自体には期限はありません。
ただし、遺言書が見つかった場合、それに続く手続きには以下にご説明するとおり期限があるものが少なくありませんので、遺言書の有無自体も早期に確認するべきです。
3 遺言書の検認手続き
⑴ 遺言書の検認手続きとは
遺言書が公正証書遺言以外で作成されている場合に、遺言書を保管していたり発見した人が、家庭裁判所に申し立てて、遺言書の状態や日付や署名等を確認してもらい、後に遺言書が偽造されたりすることを予防するための手続きです。
ここではじめて遺言書の存在や内容を知ることになる相続人も多いので、この後どのような相続手続きを行うか判断する基礎となる重要な手続きとなります。
⑵ 遺言書の検認手続きの期限について
遺言書の検認自体にも期限はありません。
ただし、やはりここで遺言書の内容を知った後に行う相続手続きに期限があるものが少なくないため、検認の申立も、遺言書が発見された場合は速やかに行うべきです。
4 相続人調査
⑴ 相続人調査とは
相続手続きを進めるためには、だれが相続人であるかを客観的に確定する必要があります。
相続人調査とは、戸籍謄本等によって、相続人を確定する作業です。
まず、被相続人については、出生から死亡までの戸籍等をすべて取得し、第1順位の相続人となる子を確定します。
その後は、被相続人の子が相続人となる場合、直系尊属が相続人となる場合、兄弟姉妹が相続人となる場合等で取得するべき戸籍等の範囲が異なりますが、相続人となる人が現在でも生存していることを確認するため、相続人の現在の戸籍が必要となることは同じです。
⑵ 相続人調査の期限について
相続人の調査自体にも期限はありません。
ただし、相続人が明らかになることで、例えば相続放棄するべき人が明らかになる、遺留分侵害額請求を行うべき当事者が明らかになる等、後に続く、期限のある相続手続きをおこなうべきかが決まってきますので、やはりできる限り速やかに行うべきです。
5 相続財産の調査
⑴ 相続財産の調査とは
相続財産の調査とは、被相続人の遺産について、客観的な資料によって確定する手続きです。
遺言書で特定されている財産が、被相続人の死亡時には存在していないこともありえますし、具体的な相続分や遺留分の算定のためにも、相続財産の調査は必ず行うべきものといえます。
主な遺産としては、不動産、預貯金、株式などのプラスの財産のほか、負債などのマイナスの財産が考えられます。
それぞれ不動産登記、残高証明、取引残高報告書、信用情報など、客観的な資料によって遺産を確定させる必要があります。
⑵ 相続財産の調査の期限について
相続財産の調査自体にも期限はありません。
ただし、財産の内容によって、後の相続手続きがある程度決まってきますので、できる限り速やかに行うべきであることは今までご説明した相続手続きと同じです。
特に、負債の有無が額によって、相続放棄等を考える相続人は多いと思われますので、それぞれの財産の調査を進める中で、負債についての調査も忘れずに早めに行うべきです。
6 相続放棄
⑴ 相続放棄とは
相続によってプラスの財産を相続するだけでなく、負債等のマイナスの財産も相続し、結果として相続によって大きな負債を引き継ぐような事態を避けるため、あるいは、目立った財産がない等の理由で相続を希望しない場合に、家庭裁判所に対して申述を行い、これが受理されることで、最初から相続人ではなかったことになります。
この手続きを相続放棄といいます。
⑵ 相続放棄の期限について
相続放棄には期限があります。
相続が開始してから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があり、この期限を経過すると相続放棄はできなくなります。
相続が開始したとされるのは、原則として被相続人が亡くなった時になります。
例外的に、被相続人と相続人の生前の関係や、相続人が遺産の内容を知った時期によって、相続が開始した時期が被相続人の亡くなった時より後となることはありますが、必ずそのようになるとも言い切れないため、やはり相続放棄との関係では、可能なかぎり、被相続人が亡くなった時を基準にして、そこから3か月を意識して手続きを進めるべきです。
7 準確定申告
⑴ 準確定申告とは
準確定申告とは、被相続人(個人事業主等)の亡くなった年度の確定申告を相続人が行う手続きです。
なお、その年の3月15日までに被相続人が死亡して、前年度の確定申告も行っていない場合は、前年度の確定申告も相続人が行う必要があります。
⑵ 準確定申告の期限について
準確定申告には期限があります。
相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告と納付の手続きをする必要があります。
8 遺産分割
⑴ 遺産分割とは
遺産分割とは、相続人間の協議(協議が調わなければ調停・審判)によって、被相続人の遺産の範囲や評価、あるいはどの遺産をどのように分けるかについて合意する手続きです。
遺言書がある場合は遺言書の内容に従うことになることが多いですが、遺言書があっても、相続人の全員と遺言執行が合意すれば、遺言書の中で禁じられていなければ遺言書の内容と異なる分割をすることもできます。
⑵ 遺産分割の期限について
遺産分割自体には期限はありません。
9 遺留分侵害額請求
⑴ 遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺言の内容によらず、相続人が最低限相続できる財産の割合である遺留分が、遺言書の内容などによって侵害されている場合、これを取り戻すために行う請求です。
⑵ 遺留分侵害額請求の期限について
遺留分侵害額請求には期限があります。
相続の開始と、自分の遺留分が侵害されていることを知った時から1年以内に行う必要があります。
また、相続開始から10年が経過するとそれ以降は請求ができなくなります。
10 相続税の申告
⑴ 相続税の申告について
相続税は、相続が発生した場合に必ず申告が必要なわけではありません。
相続によって取得した財産が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の人数)を超えない場合は不要です。
これ以外の場合は、申告が必要になります。
⑵ 相続税の申告の期限について
相続税の申告には期限があります。
また、申告のみでなく、納付の期限も同じです。
相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
10か月経過時に遺産分割協議がととのっていないということは申告を行わない正当な理由にはならないのでご注意ください。
相続放棄や遺留分侵害額請求は、期限が過ぎるとその手続きが行えないだけですが、相続税の申告・納付は、期限を徒過すると延滞税が課され、場合によっては無申告加算税が課されるというペナルティーがあるのでこの点もご注意ください。
11 その他
⑴ 名義の変更など
遺産分割協議等の結果、または遺言書の内容を実現する手続きには、不動産の名義変更(不動産の所有権移転登記申請手続き)、預貯金等の解約・払戻請求等があります。
⑵ 名義の変更などの期限について
不動産の相続を原因とする所有権移転登記は、いわゆる相続登記と呼ばれるもので、その手続きには期限があります。
相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。
預貯金等の解約・払戻請求については、金融機関等の対応に差はありますが、相続開始後できるだけ早い時期に金融機関等に確認することをおすすめします。
12 相続手続きは専門家にお任せください
以上のとおり、相続手続きには期限が定められているものも多く、期限を過ぎてしまうと、その手続きが原則としてできなくなってしまいます。
あるいは、例外的なケースであることを理由に家庭裁判所等で認めてもらえることもありますが、認めてもらうためには、専門的な知識やそれを裁判所に伝える技術が必要になります。
また、期限が定められていない手続きも、相続人調査や相続財産調査のように個人で行うには煩雑であるものが多いです。
期限がないからといってそのままにしておくと、別の手続きに進めないということもあり得ます。
さらに、期限のある手続きを円滑に進めるために、遺産分割協議等を行う必要がある場合、代理人となれる専門家が弁護士に限られるものや、相続税の申告手続きのように税理士が代理するものもあります。
したがって、相続手続きは、手続きの全体をトータルにサポートできるところに依頼されることをおすすめします。
私たちは、相続を得意とする弁護士や税理士がお互いに連携することで、相続手続きをトータルにサポートさせていただいております。
相続については、原則相談料無料でご対応させていただいておりますので、東京で相続についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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