遺留分侵害額請求
遺留分を請求する方法
1 内容証明郵便を使って請求を行うことが多い
遺言書や生前贈与で多額の財産を受け取っている相続人がいる場合、他の相続人は、遺留分侵害額請求を行って金銭の支払いを求めることができます。
遺留分侵害額請求をするためには、「こうしなければいけない」という法律はありません。
そのため、法律だけをみれば、書面である必要はなく、裁判である必要もないため、それこそ、口頭でもよいということになります。
しかし、実際は、まずは内容証明郵便を使うケースが多いです。
内容証明郵便とは、送った手紙の内容を郵便局が控えを取り、誰に何をいつ送ったかを証明してくれるサービスです。
郵便サービスの一つで、法律上の請求では頻繁に使われています。
2 内容証明郵便を使う理由
⑴ 1年の時効
なぜ内容証明郵便を使うのかというと、遺留分侵害額請求には時効があるからです。
遺留分侵害額請求は、
・相続の開始
・贈与又は遺贈があったこと
を知ったときから、1年以内にしなければ、請求ができなくなってしまいます。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
つまり、一例として、亡くなったこと(相続の開始)か、遺言書があったこと贈与又は遺贈があったことのどちらか一方を知らなければ大丈夫なのですが、両方知ってしまうと1年の時効がスタートしてしまいます。
一方で、1年以内に1回でも遺留分侵害額請求をしておけば時効はストップし、次の時効は5年になります。
⑵ 内容証明郵便を使うメリット
日常生活などで使う書留郵便等は、「“〇月〇日”に“○○さん”に手紙を送った」ことの証明には役立ちます。
しかし、時効をストップするために重要なことは、「“〇月〇日”に“○○さん”に“遺留分侵害額請求をしたこと”」を証明する、つまり、手紙の内容が重要です。
書留郵便等では、封筒の中身については証明をしてくれないため、例えば、裁判で「届いた封筒は空だったため、遺留分侵害額請求はされていない」と主張されてしまう可能性もあるわけです。
そこで、送った内容まで証明してくれる内容証明郵便で遺留分侵害額請求を行い、確実に時効をストップする必要があります。
3 内容証明郵便を受け取ってもらえない場合
内容証明郵便を送ったとしても、相手に到達しないと時効はストップしません(民法97条1項)。
例えば、1年ギリギリで内容証明郵便を送ったところ、相手が不在で届かなかったときは、時効はストップしません(※)。
民法97条(意思表示の効力の発生時期等)
1 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
こういった場合は、
・裁判を起こす
・相手のポストに直接投函をして、その様子を記録に残す
など、特殊な対応が必要になります。
※ なお、相手が、居留守を繰り返すなど、正当な理由なく受け取らないときは、受け取り拒否をしたときに時効はストップします(民法97条2項)。
4 家庭裁判所における調停
内容証明郵便を送ったあとは、話合いになるわけですが、当然、話合いがまとまらないことはあります。
話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を提起することになります。
調停とは、訴訟とは異なるもので、裁判所における話し合いです。
当事者が家庭裁判所に出廷し、調停員を介して話し合いをします。
具体的には、遺留分を請求する側と遺留分を請求される側が調停員のいる部屋に交互に入り、それぞれの言い分を調停員に伝え、裁判官の意見を聞きながら双方が納得できる解決を模索します。
合意ができると、裁判所で調停調書という書類が作成され、解決となります。
5 調停がまとまらない場合は、地方裁判所で訴訟
家庭裁判所における調停では、あくまで双方が合意をしないと、調停調書は作成できません。
そのため、調停で解決しないこともあります。
この場合は、地方裁判所に訴訟を起こすことになります。
訴訟であれば、最終的には、裁判所が判決を出すことになるため、当事者が納得をするかどうかにかかわらず結論が出ることになります。
6 遺留分の請求をお考えの方は、まずは弁護士に相談を
遺留分侵害額請求は、今までの説明でお分かりいただけたかと思いますが、時効の問題もあり、スタート地点から慎重に進めていくべきです。
手紙が、時効の問題をクリアできる内容になっているか、金額交渉をどうするか、調停・訴訟など、裁判所を利用するかなど専門的な判断が求められます。
遺留分の請求をお考えの方は、まずは、弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分を請求したい方へ
1 遺留分侵害額請求は専門家に相談を
遺留分侵害額請求は兄弟姉妹以外の相続人に認められた最低限の相続をする権利のことです。
遺留分侵害額は配偶者や子の場合は相続分の2分の1、直系尊属の場合には相続分の3分の1と法律で決められています。
遺留分侵害額請求の対象となる遺産の範囲や評価額などについては、争いになることが多いため、相続に詳しい専門家に相談をすることが重要です。
特に遺留分侵害額請求の時効は、請求ができる時から1年間と短く設定されているため、早急に遺留分侵害額請求の意思を、内容証明郵便などの証拠として残る形で相手方に伝える必要があります。
相手方が内容証明郵便を受け取らない場合等は、訴訟提起を急がなければならないケースもありますので、できるだけ早く弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
また、遺留分侵害額請求をして受け取った金員については、相続税がかかる場合があります。
その際は、相続税の申告が必要になりますので、税理士への相談が必要になる可能性があります。
2 相続法改正と、専門家に依頼する重要性
令和元年7月の相続法改正により、遺留分につき2つの大きな変更がありました。
1つ目は、生前贈与に対する遺留分請求の期間制限です。
これまでは生前贈与に対する遺留分侵害額の請求に、期間制限はありませんでしたが、改正により亡くなる前10年間に限定されています。
請求できるかできないかにつき、以前よりも判断が厳しくなっています。
2つ目は、遺留分請求権が金銭債権に変わったということです。
実質的に大きな変更点ではないように思えますが、被相続人の財産調査をする際に、これまでは遺言により財産を相続しない相続人も遺留分権利者であることで預金債権者となっていましたが、単なる金銭債権に変更されたことで預金債権者ではなくなったことを理由に、資料開示を拒む銀行も出てきています。
このような法改正を踏まえた上で遺留分侵害額請求を進めるためには、やはり専門家にご依頼いただくことが重要かと思われます。
3 遺留分のご相談をお待ちしています
遺留分侵害額請求については、相続法改正も相まって難易度が上がっており、相続を得意とする専門家に相談されることをおすすめします。
私たちは、弁護士や税理士などの複数の専門家が協力して、相続のお悩みをトータルサポートできるよう努めておりますので、遺留分についてお悩みのことがあればどうぞご相談ください。