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遺言の方式

  • 文責:所長 弁護士 石井浩一
  • 最終更新日:2024年3月15日

1 遺言の方式とは

遺言は、民法の定める方式に従わなければ、無効とされてしまいます。

遺言者の相続開始後に効力が発生するものであるため、遺言者の遺言時の真意がどのようなものであったのかについて、相続開始後に紛争が生じるおそれがあります。

そこで、遺言者の真意を厳格にチェックするために、遺言者は一定の方式に従って遺言を行わなければならないとされているのです。

民法は、自筆証書遺言や公正証書遺言、秘密証書遺言などの個別の方式を定め、さらに、これらに共通する事項として、加除変更の方式などを定めています。

実際には、遺言の方式の一部を守っていない遺言についても、裁判所が有効であるとした事案もありますが、これらの事案はあくまでも例外的な救済が認められたものに過ぎません。

ですから、相続開始後に遺言が無効とされないよう、遺言作成段階では、厳格に民法の定める方式を遵守していく必要があるといえます。

このため、遺言を作成するにあたっては、自筆証書遺言である場合を含め、一度は相続問題に詳しい弁護士などのチェックを受けておいた方がよいかと思います。

2 共同遺言の禁止

2人以上の者が同一の証書で遺言することを、共同遺言といいます。

民法上、共同遺言はできないものとされており、相続開始後も共同遺言は無効と扱われます。

ただし、判例には、作成名義の異なる2通の遺言書が別紙に記載され、それらが1つにつづり合わされていた(容易に切り離すことが可能)遺言について、両者に内容上の関連性もないことも考慮し、例外的に共同遺言に当たらないとしたものがあります(最判平成5年10月19日家月46巻4号27頁)。

共同遺言の禁止でしばしば問題となるのは、夫婦間で次のような内容の遺言が行われる場合です。

「夫が先に亡くなったら、妻に、夫の持っている一切の財産を相続させる。妻が先に亡くなったら、夫に、妻の持っている一切の財産を相続させる。」

現実に、夫婦でお互いが亡くなった後のことを慮り、このような内容の遺言を行いたいと希望することがしばしばあります。

しかし、このような遺言が同一の遺言書で行われた場合は、同一の証書で2人が遺言を行ったことになりますので、共同遺言の禁止の原則により、遺言が無効とされてしまいます。

判例も、例え、一方が自書していなかった(遺言の方式違反がある)場合でも、両方の遺言が無効になるとしています(最判昭和56年9月11日判時1023号48頁)。

このような内容の遺言を行いたい場合は、夫が「遺言者○○は、その妻××に、一切の財産を相続させる」という内容の遺言を、妻が「遺言者××は、その夫○○に、一切の財産を相続させる」という内容の遺言を別々の証書において行う必要があります。

なお、このような遺言を行った場合は、相続開始後、他の相続人が遺留分侵害額請求権を行使する可能性があるため、注意しなければなりません。

3 遺言書の加除変更

遺言書を作成する際には、誤記を訂正する必要が出てきたり、後で遺言に変更を加えたくなったりすることがあります。

このような場合には、被相続人自らの手で、遺言書に加除変更を行う必要があります。

民法は、遺言書(公正証書遺言を除く)に加除変更を行う場合には、加除変更したことを付記して署名した上で、加除変更した場所に押印しなければならないとし、厳格な方式を定めています。

具体的には、①加除訂正を行った場所に押印した上で、左部欄外に、「この行1字訂正」と記載し、そこに署名するか、②加除訂正を行った場所に押印した上で、遺言書末尾に、「この遺言書5行目中「○○」とあるのを「××」と訂正した。」と記載し、そこに署名する必要があります。

このような方式に違反した加除変更は無効です。

さらに、場合によっては、加除変更の方式違反により、相続開始後に、遺言書全体が無効とされることもあります。

日付の変更につき、抹消部分が判読できないため、遺言書全体が無効とされた例があります(仙台地判昭和50年2月27日)。

とはいえ、加除変更部分がわずかで、かつ付随的なものであり、その部分を除外しても遺言の主要な趣旨が表現されている場合には、遺言全体の効力には影響しないとされた例もあります(大阪高判昭和44年11月17日)。

最高裁も、明らかな誤記の訂正については、方式違反があっても、遺言全体が無効となるものではないとしています(最判昭和56年12月18日民集35巻9号1337頁)。

参考リンク:最高裁判所判例集

いずれにしても、相続開始後に被相続人の意思を確実に実現するためには、民法の方式を厳格に守った方がよいと思います。

方式の確認に当たっては、弁護士などの相続の専門家のチェックを受けるのがおすすめです。

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遺言の方式

遺言には大きく分けて二つの方式が存在します。

一つは普通方式で,自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の三種類に分けられます。自筆証書遺言とは,その名の通り自ら手書きで作成する遺言で,公正証書遺言とは公証人立会いの下で作成する遺言です。

一番確実な方法としては,公証役場で作成するのがもっとも適切といえますが,公証人の前で遺言の内容を口頭で述べる(口授)必要があります。

誰にも内容を知られずに遺言を残したいという場合は,自筆で残し,封筒に入れて封印をするという秘密証書遺言を残すことも可能です。

そしてもう一つは危急時遺言・隔絶地遺言から成る特別方式で,死亡が危急に迫った場合や,一般社会と隔絶した場所にいる場合に認められる方式ですが,こちらはあまり一般的ではありません。

通常,遺言をする場合には自筆証書・公正証書あるいは秘密証書のいずれかの形になることが多いといえます。

自筆証書遺言は自分で自由にいつでも作成することができますが,一定の方式(日付の書き方,本人の手書きである必要性等)を知っていなければ,法律上無効になる場合があります。

また,誰にも遺言の内容を知られずに作成する秘密証書は,かなり多くの手続きを踏まなければならない上に,公的に保管されるわけではないため,死後発見されず遺言が実現されないという危険があります。

遺言書の保管にご不安があるようであれば,公正証書遺言をお勧めします。

公正証書遺言では,原本を公証役場で保管するため,作成後の紛失や偽造といった心配がありません。

公正証書遺言を作成するためには,一定の料金や印鑑証明等が必要となります。

また,事前に取り付けておかなければならない書類(戸籍,登記簿等)も多々あります。

遺言書の内容も検討しなければなりませんし,一括して弁護士に相談することをお勧めします。

なお,遺言にはいくつか注意点があり,その注意点を知っておかなければせっかく作成した遺言書が法的に無効となってしまう場合があります。

例えば,遺言書は二人以上の連名で作成することができません。

夫婦や兄弟など,一通の遺言書に連名で署名してしまうと,その遺言書自体が無効になってしまいます。

また,相続人や相続財産を明確にしておかなければなりません。

「長女に東京の土地を相続させる」と書いても,その長女が誰を指しているのか,東京の土地とはどこを指しているのかがあいまいであれば,遺言者の希望通りに執行されない場合があります。

「長女〇〇(フルネーム)に,東京都××区△△(地番など)を相続させる」と明確にしておく必要があります。

せっかく作った遺言書が後から無効になったりしないようにするためにも,遺言に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

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